公開:2025年12月12日
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認定スクラムマスターでありGitLabとAWSに深い知見を持つプロが、外注依存から脱却し自社主導でDXを加速する実践的な道筋を解説します。

編集部注:私たちは時折、パートナーコミュニティのメンバーにGitLabブログへの寄稿をお願いしています。今回、キャラウェブ社のエンジニアである中山桂一氏に、共同執筆いただきました。認定スクラムマスターでありGitLabとAWSに深い知見を持つプロが、外注依存から脱却し自社主導でDXを加速する実践的な道筋を解説します。
スプリントはこなしていても、リリースまで数ヶ月掛かっている。そんな状況が続いていたりしませんか? 近年、多くの企業でDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが、もはや待ったなしの状況に突入しています。そんな中、上司からの号令により、DXを加速させるべくスクラムを導入してみたという方は少なくないのではないでしょうか?
スクラムで定義されたスプリントプランニングやデイリースクラム、スプリントレビューといったイベントをこなし、タスク管理のためのツールも導入してみたが、チームの生産性は上がらず、リードタイムも短くならない。
このような状況のまま開発は形式的に進められていき、「なんちゃってスクラム」を続けている。
このようになってしまう最大の理由は、従来からの「外注中心」や「ウォーターフォール」の文化が抜けないまま、表面的な「スクラム」を取り入れてしまったことにあります。
私がこれまでに見てきた開発現場の中では、プロダクトオーナーという名のプロジェクトマネージャーが、従来同様の下請け開発会社とともに開発を進めていき、形式的に定期的なスクラムイベントを実施するものの、本質的に1つのチームとして動けていないことで、全体像がブラックボックスになり、連携がスムーズに行われないという状況を多く見てきました。
この「なんちゃってスクラム」の閉塞感の根本原因は、情報の一元化と透明性の欠如にあります。特に日本の開発現場では、以下の課題が散見されます。
ツールの分断による情報のサイロ化: タスク管理はJira、ソースコード管理はGitHub、CI/CDはJenkinsやAWSの各種サービス、ドキュメントはConfluenceなど、それぞれ別のツールを組み合わせることで、情報が分散してしまいます。
外注依存による進捗の不透明性: 外注パートナーがスクラムのタスク管理を行い、自社のプロダクトオーナーやスクラムマスターは、そのパートナーからの報告でのみ進捗を判断する状況になりがちです。これにより、今、誰が、何を、どれくらいの品質で進めているのか、といった開発の「真の姿」がブラックボックス化し、的確な課題発見や意思決定が困難になります。
ベンダーコントロールからの脱却の困難さ: 従来、ベンダーコントロールを担ってきた自社のシステムエンジニア(SE)がプロダクトオーナーやスクラムマスターの役割を担っても、情報の一元化がなされていない状態では、結局は外注先との「報告・連絡・相談」に終始し、本質的な『自社主導』とはかけ離れてしまいます。
真のアジャイル開発、特にスクラムは、「透明性」「検査」「適応」の三本柱の上に成り立っています。しかし、ツールの分断と外注依存によって透明性が失われた状態では、いくらイベントを実施しても生産性は向上しません。

形骸化した「なんちゃってスクラム」を真の高速アジャイル開発に変えるために必要なのは、「開発プロセス全体の情報と活動を、自社主導で、たった一つのプラットフォームに集約し、可視化する」ことです。
その解決策こそが、DevSecOpsプラットフォームであるGitLabを活用し、開発の企画(Agile Planning)からリリース、運用に至るまでのソフトウェア開発ライフサイクル(SDLC)全体を一本化することです。
多くの場合、ソースコード管理にGitHubを利用し、その他の活動に複数のツールを組み合わせますが、これでは情報分断の根本的な解決にはなりません。GitLabは、Issue管理(タスク管理)、ソースコード管理、CI/CD、セキュリティ、そしてアジャイル計画までを完全に統合しています。
特に、外注中心から自社主導へ脱却し、スピードと柔軟性を求めるチームにとって、AWSなどのクラウドプラットフォームを基盤とし、その上で計画情報と実行情報を同一のプラットフォーム(GitLab)上に持つことは、スクラムの透明性を確保し、内製化を成功させるための最強の武器となります。

自社主導での内製化開発を強力に推進するために、私たちはGitLabのアドオンであるGitLab Enterprise Agile Planningの導入を提案します。
この機能は、これまでベンダーコントロールに終始していた自社のプロダクトオーナーやスクラムマスターとなるSEに対し、以下のような変革をもたらします。
情報の完全一元化: エピック、フィーチャー、ストーリーといった計画(Agile Planning)の情報をGitLab上で完全に管理します。更に、コードの変更権限は持たないものの、Issue、Board(カンバンボード)、そしてバリューストリーム分析を通じて、開発者が残した実行情報(コミット、MR(Pull Request)、Pipelineの結果など)を可視化し、全体像を俯瞰できます。外注先も自社のメンバーも、同じツール、同じデータソース上で動くため、情報格差がなくなります。
リアルタイムな透明性の獲得と進捗の「検査」: 外注パートナーからの「報告待ち」ではなく、開発者がGitLab上で行った実行結果(MRのステータス、パイプラインの成否など)を、Issueやバリューストリーム分析といった非開発者向けのインターフェースからリアルタイムなデータとして確認できます。 特に、スプリントの進捗管理にはバーンダウンチャートやバーンアップチャートを活用し、計画に対する実績を正確に追跡することが可能です。これにより、デイリースクラムやスプリントレビューでの的確な検査と適応が可能になります。
価値を測る『分析』の活用: GitLabのバリューストリーム分析(Value Stream Analytics)を活用すれば、企画から本番リリースまでのSDLC全体をデータで俯瞰できます。GitLab Enterprise Agile Planningでもこの分析機能を活用し、どのフェーズにボトルネックがあるのか、リードタイムが長い原因はどこにあるのかといった課題を客観的なデータで特定できるようになり、真に価値のある改善活動が可能になります。
GitLab Enterprise Agile Planningを導入するメリットは、コスト最適化にもあります。コードを書かない(実行系の機能が不要な)プロダクトオーナーやスクラムマスターが、高価なUltimateライセンスではなく、計画と分析機能に特化した低コストなGitLab Enterprise Agile Planning AddOnを利用できるため、Ultimate機能の恩恵を受けつつ、内製化体制の構築コストを最適化できます。
GitLab Enterprise Agile Planningは、形式的なスクラムの運用を、データと事実に基づいた自社主導の価値創出プロセスへと昇華させる鍵となります。
DXを成功に導くためには、単に新しい技術を導入するだけでなく、開発プロセス全体に潜む「無駄」を徹底的になくすことが必要です。情報分断によるコミュニケーションのロス、進捗の不透明性による意思決定の遅延、そして複数のツールを行き来するコンテキストスイッチの発生。これら全てが、開発のスピードと生産性を阻害する大きな無駄です。
GitLab Enterprise Agile Planningを核としたGitLab One DevSecOps Platformの導入は、これらの無駄を一掃し、自社で開発プロセスをコントロールするための強固な基盤を提供します。
外注への依存体質を改善し、真に内製化を推進するためには、「開発に必要な全ての活動を統合したプラットフォームを、自社のリーダーシップのもとで活用する」という意識改革と環境構築が不可欠です。
「なんちゃってスクラム」から脱却し、自社主導の高速アジャイル開発を実現するには、3つの要素が不可欠です。
第一に、開発プロセス全体の透明性を確保することです。ツールが分断されると情報がサイロ化し、スクラムの基盤である「透明性」が失われます。GitLabは計画・実装・CI/CD・分析を単一プラットフォームに統合し、プロセス全体を一元的に可視化します。
第二に、自社が主導権を持って開発を推進できる体制を構築することです。外注からの“報告待ち”ではなく、GitLab Enterprise Agile Planningを通じてリアルタイムの実行データを把握し、プロダクトオーナーやスクラムマスターが状況を直接検査できます。コードを書かない役割でも、開発の全体像を自らコントロールできるようになります。
第三に、データに基づく継続的改善を実現することです。バリューストリーム分析やバーンダウンチャートにより、ボトルネックやリードタイムの課題を客観的に特定できます。これにより、形式的なイベント運営ではなく、事実に基づく「検査」と「適応」が機能する真のアジャイル開発へと進化します。
DXの成功は、単なるツール導入ではなく、プロセス全体の変革にあります。GitLabを中心にAWSの柔軟なクラウド基盤を組み合わせることで、御社の開発チームは“外注依存のスクラム”から脱却し、自社主導で価値を生み出すアジャイル開発へ踏み出すことができます。
GitLabで情報の一元化と透明性を確保できたとしても、プロダクトオーナーやスクラムマスターには依然として多くの計画作業が残ります。要件の構造化、バックログの優先順位付け、ステータスレポートの作成—これらの繰り返し作業が、本来注力すべき戦略的な意思決定の時間を奪っているのです。
そこで活用したいのが、GitLab Duo Plannerです。これは、GitLabプラットフォーム上で動作するAIエージェントで、プロダクトマネージャーやエンジニアリングマネージャーの計画作業を大幅に効率化します。
Duo Plannerは、漠然としたアイデアを数分で構造化された要件に変換し、RICE・MoSCoW・WSJFなどのフレームワークを即座に適用して優先順位付けを支援します。さらに、依存関係の分析やステータスレポートの自動生成により、隠れたリスクを早期に発見し、チーム全体の透明性を維持します。
詳しくは、以下の記事をご覧ください: コンテキストスイッチを排除した効率的な計画 - GitLab Duo Planner Agentの紹介
GitLabを活用した自社主導のアジャイル開発は、御社のDXを加速させる強力なエンジンとなります。まずは、GitLabを導入し、御社自身が内製化の主導権を握ることが第一歩です。
その第一歩として、GitLabの無料トライアルを活用し、Enterprise機能に触れてみることをお勧めします。特に、この記事で解説したGitLab Enterprise Agile Planningの機能は、無料トライアルでPlanner Roleを設定することで、その強力な計画・分析機能をすぐに体験できます。
GitLabで情報の一元化と透明性を確保し、データに基づいたアジャイル開発の世界を体験してください。
しかし、ツールを導入しただけでは、長年の「外注中心」や「なんちゃってスクラム」の文化は変わりません。GitLabの機能を使いこなし、プロセスや組織に定着させるには、スクラムマスターやプロダクトオーナーの『実践的なリーダーシップ』と『正しいツール活用方法』の習得が不可欠です。
ツールを使いこなすには、プロダクトオーナーやスクラムマスターの『実践的なリーダーシップ』と『正しいツール活用方法』の習得が不可欠です。
私たちは、AWSとGitLabの統合的な知見を活かし、「なんちゃってスクラム」から自社主導のアジャイル開発への移行を支援するプログラムを提供しています。
https://www.cloud-partner.jp/insource/
GitLabを活用した情報の一元管理と継続的な改善を、実践形式で学び、内製化の主導権を手に入れてみませんか。
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